ヘルスケア

身近な人に「死にたい」と言われたら

年間約2万人、自殺により命を落とす人がいます。

近年総数としては減少傾向にあるといわれているものの、主要国・先進国諸国の中でも依然として高い水準であるなど、社会全体として大きな問題であることは言うまでもありません。

H30自殺の概要資料1 平成30年中における自殺の状況より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/H30kakutei-01.pdf  2019/11/7アクセス

こちらのデータを見ると、10代の自殺者に関しては横ばい、むしろ増加傾向にあることが分かります。

さらには日本財団第3回自殺意識調査報告書によると、若年層の10人中3人が自殺を考えたことがあると報告されており、10人に1人が自殺未遂を経験したという統計もあります。
(https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/03/wha_pro_sui_mea_11-1.pdf ,2019/11/7アクセス)

厚生労働省の統計によると、自殺の原因としてはうつ病を含めた健康問題が最も多いと報告されていますが、”遺書等があって明確に理由が分かるものに関して3つまでのカウント”となっており、自殺に踏み切るにあたっての原因は一つではなく家庭環境や学校問題など複数の問題によって自殺という行為を形成しているというのは想像に難くありません。

また、健康問題による自殺は平成29年から平成30年にわたって減少した一方で、若年層の自殺念慮・未遂の最大原因として4人に1人がいじめと回答している、という報告もあり時代とともに自殺の原因やそれを取り巻く社会背景も変わってきているのが現状のようです。(出典:日本財団第3回自殺意識調査報告書https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/03/wha_pro_sui_mea_11-1.pdf ,2019/11/7 アクセス)

こうして私たちの生活に密接にかかわる自殺の問題について、
「身近な人に自殺したいと相談されたら」というテーマで一緒に考えていきましょう。

共感的な態度で聞くこと

まずは、共感的な態度で”聞く”ということが大事です。
当たり前のようですが、医師である私にとってもこれは難しいことです。

相手の言うことに口を挟まずただひたすらに聞き続ける、あるいは「それはつらかったね」「大変だったね」と声をかけることも有効です。

共感的というのは自分が必ずしも共感しなければならない、というわけでなくて相手に寄り添う気持ちがあることを表明することが重要です。時には、あまりに悲観的な考えにとらわれていて全く共感できないということがあるでしょう。そのときにも、つらかった本人の気持ちをただ尊重するにとどめ、無理に自分がその気持ちになったり想像したりする必要はありません。

むやみに励ますことはしない

これは、共感的な態度で聞くということにも重なるのですが、励ますということは基本的には難しいと考えた方がよいでしょう。

自殺を考えている人は一過性あるいは慢性にうつ状態にあることが多く、うつ病を患っているというケースも少なくありません。

こういった自殺を考えるほどの重いうつ状態に対して励ますことはかえって危険であるという報告もあり、精神科の専門でない一般の人が安易に励ます、といったことは避けた方がよいでしょう。

また、「気分転換に旅行に行ってはどうか?」などといった気晴らしを進める発言は基本NGです。うつ病あるいは、うつ状態にあるときには普通の人のいう”気晴らし”であっても楽しめないということが多く、そこからくるプレッシャーや悲壮感から一気に状態を悪化させる危険性があるといわれています。

医師国家試験においてもうつ状態の人に気晴らしを進める発言は禁忌肢(これをすると患者に危険が及ぶ可能性が高いとして一定数以上誤って選択すると点数に関わらず不合格となる選択肢,注:厚生労働省からは原則非公開であるため推測の域を出ない)としても有名です。

自殺について聞くこと

これは多くの方が誤解していることですが、自殺を考えている人に対して自殺の質問をすることは決してタブーではありません。また、その質問が本人の自殺につながることもありません。

自殺をしようとしているのか、という質問はなかなか気軽にできるものではありませんが、聞けるのならば勇気を出して聞いてみましょう。

相談するということは既に十分な信頼関係が築けていることが多いわけですので、医師やカウンセラーよりもさらに、話すことのハードルが本人にとって低いという可能性もあります。
話す、という行為が自分の精神状態を客観視するきっかけになり事態が好転するといったケースもありますので、むしろ積極的に聞くことが大事であることが分かりますね。

自殺について質問するときには、自殺の手段や確実性がカギとなります。

手段が具体的であるかどうか
確実に死ぬ、という強い意思を持っているかどうか
計画があるか

これら手段が具体的で意思が明確(1週間後に○○という場所で○○を使って行う、という計画があるなど)な場合は事態が差し迫っていると考えなければなりません。

また以前自殺未遂をしたことがあるという人にはその当時の手段について尋ねることで、今回と比べてどうかを評価することができます。

たとえば「前回はリストカットであったが、今回は練炭を使用しようとしている」など入手の難しい道具を必要とする方法で実践しようとしている場合は手段がより強固になっているとして危険な状態と判断しなければなりません。

こうした場合には、必ず専門機関の速やかな受診を考慮にいれてください。
(評価は難しいため、自殺の計画が本人にあるときはとりあえず危険と判断してください)

専門医のいる病院では、自傷の恐れがある患者に対しては本人の同意がなくても入院をさせることが可能です。

必ず、専門機関の受診をゴールに考えることを忘れないでください。

専門機関の受診をすすめる

精神科やカウンセラー、心理専門職への相談には抵抗感が強い、という人が多いのは事実です。
日本ではとくに、精神科=統合失調症というイメージが一人歩きして自分がうつ病やうつ症状で精神科に受診することを毛嫌いする傾向にあります。
また、「職場を解雇されるのでは?」「近所の人に精神科の受診がばれたら変な人だと思われるのでは?」といった本人の不安も大きなハードルといえます。

また、医療従事者に相談しても自分に適当な病名をつけるだけで、何の解決にもならないのではないか、という医療に対する不信感も少なからずあるでしょう。

そのため、相談するのは身近な人だけで「誰にも言わないで」とお願いすることも珍しくはないでしょう。

そうしたときも、繰り返しになりますがゴールは専門機関の受診と考えてください。

もっとはやい時期に対処すれば自殺を十分防げたのではといった例もありますし、現在のうつ状態に隠れた病気があることもあります。

また、専門医であれば薬物療法に限らず認知行動療法や電気けいれん療法といった特殊な治療まで、幅広い選択肢を取りながら、本人の状態回復を目指すことが可能になります。

カウンセリングの技術も日々進歩を遂げており、専門家でない我々には出来ない技術がたくさんあります。
必ず、専門機関の受診をすすめてください。

十分に共感的な態度で傾聴して、専門機関の受診を促すことは実に難しいことですが現在自殺企図者に手を差し伸べられる方法はそれしかありません。

一緒に行くことを提案する、というのも有効と考えられます。
精神科に行くということがいいにくければ、「体調も悪そうだからふつうに先生にみてもらおう」といって内科の受診をしてそこから専門医にひきついでもらう、というのも手でしょう。

一人で抱え込まない

これで最後になりますが、絶対にひとりで抱え込まないでください。

医師であれ家族であれ、信頼できる人を必ず見つけてください。

自殺の相談を受けていても、正直うまくいかないことばかりです。
病院に受診することを促したら激昂されることもあるでしょうし、突然裏切られたり口を閉ざしてしまったりといったことも少なくありません。

「誰にも言わないで」といわれていても絶対に一人では抱え込まないことが重要です。
自殺の話題は、想像するよりも重くのしかかってくるでしょう。
相談を受けているうちに自分がうつ病になってしまったという人も多いのです。

また、考えたくはないことですが万が一うまくいかなかったときに自分ひとりの責任であると考えて自分を責めてしまうことを防ぐという役割もあります。

自殺企図者はがん患者と同じ、放っておいたら死んでしまうような人たちなのです。

誤解を恐れずに言えば、助からなくて当たりまえでもあるのです。
上手くいかなかったときも必要以上に自分を責めることはあってはいけません。

自分ひとりで対処しようと思わない
過度に責任意識を持たないこと

この2つがなにより大切です。

救急医療の原則は、救助者自身の安全です。

自分の身を守りながら、少しでも自分の大切なひとを救える人が増えること
そして、自殺を考える必要のない世の中になることを祈っています。

ABOUT ME
そう先生
慶應義塾大学卒の都内勤務医。医療情報を一般の人にもわかりやすく、そして「とにかく健康に生きる」をモットーに日々情報を発信していきます。フリーのライターをしながら教育ベンチャーのお手伝いなんかもしています。